フォーカル・カーオーディオの責任者、ギー・ボンネビル氏に訊く
11:34
10月30日、宇都宮にあるみずほの自然の森公園で、2011フォーカル・サウンド・ミーティング関東が行われ、フォーカルのフランス本社から、カーオーディオ部門の総責任者、ギー・ボンネビル氏が来日した。
カロッツェリアDEH-P01の音質のキーマンに訊く
12:1410万円で4ウェイマルチのオール・イン・ワンがコンセプト
昨年来の不況のさなかにあって、10万円超の価格にも関わらず、6月の発売以降、ずっと品薄状態が続いているヒット商品がある。カロッツェリアのCDメインユニット、DEH-P01(105,000円)だ。その音創りのキーマンのひとりが、DEH-P01の音質設計を担当の橋本岳樹氏。カロッツェリアの最高峰カーオーディオ「Xシリーズ」のデジタルプリアンプ、RS-P90Xでは電気設計担当として主にデジタルオーディオ部の基板設計とオーディオ性能等、さまざまな電気特性の確保を行いつつ先輩エンジニアの元で音創りの基本を学び、AXM-P01ではシステム全般の電気設計と音創りを担当した、若手のホープの一人だ。「私は学生時代、カロッツェリアXに憧れ『より多くの人にカーオーディオの楽しさを伝えたい』と思い入社した経緯がありました。入社後は低価格帯のモデルやRS-P90X、AXM-P01等を通じて高音質技術と製品に関する様々な事を学んで来ました。そんな中、DEH-P01の企画構想が始まり『今こそ、より多くのお客様へカーオーディオの楽しさを伝えるチャンス』と思い、自らDEH-P01の開発チームへの参加を志願しました。結果、カロッツェリアXのベテラン技術者達の協力を得ながら、構想段階から音に関わる全ての事に携わることができました」
橋本氏がDEH-P01で関わったのは回路構成に始まり、パターレイアウト、部品選定、製品としての音創りと多方面にわたる。そのDEH-P01の商品コンセプトとは?
「DEH-P01は10万円でアンプ内蔵・4ウェイマルチという仕様の『All in One』がコンセプトでした。可能であればパワーアンプ部も1DINの中に、と考えていたくらいです。しかしそれでは『小信号系』と『大信号系』が干渉し合い、音質が犠牲になりますし、フロント3WAYを内蔵アンプのフルマルチで鳴らす事も、スペースの制約上、不可能になってしまいます。もちろん、DSP以降を外に出して光伝送を、という案もありましたが、『DSPやDAC等の小信号系』と『パワーアンプ等の大信号系』は、音の為に別筐体にする必要があります。そのためヘッドユニット/プロセッサー/パワーアンプの3ピース構成となってしまいますので、現実的ではありません。結局のところ、『10万円でアンプ内蔵、4WAYマルチ』という仕様において、DSP内蔵ヘッドユニット+外部パワーアンプという形態がベストという結論にたっしたわけです。アナログ伝送の距離が多少長くなってしまいますが、そこはしっかりとしたアナログ出力を出すことによってカバーしています」
では、サウンド面のコンセプトは?
「商品企画から、情報量が多くハイスピードな音という要望がありましたので、それを踏まえた上で、音創りを開始しました。DEH(カロッツェリアでDEHはアンプ内蔵CDメインユニットの意)のカテゴリーにおいて、カロッツェリアXのように物量は投入できないため、すべての要望を満たすことは不可能です。そんなコストの制約はありましたが、カロッツェリアXの音にも通じるワイドレンジ、立体的な空間表現などの基本的なところもしっかりと抑えつつ、カロッツェリアXと同等以上の時間とパワーとかけて音創りを行いました。これは通常の10万円のモデルでは、まず考えられないことです」
D/Aコンバーターとサウンドマスタークロック回路が鍵
実際の音創りとは、どのように進められていくのだろうか。「音創りの第一歩は、音の命であるD/Aコンバーターの選定から始まります。これは特に重要な部分であったため、商品企画、カロッツェリアXの技術者など、大人数で幾度となく行われました。コストも限られている中、自分たちの希望をすべて満たすD/Aコンバーターは無いわけですが、限られたコストの中で最高のパフォーマンスを発揮してくれる、そう思って選んだのが旭化成エレクトロニクス社のAK4396というD/Aコンバーターです。DEH-P930で使用していたものと比較すると音の傾向は違いますが、S/N、空間表現、質感などが非常に優れています。音のキャラクターは、明瞭、繊細、ハイスピードといえると思います。その良さをスポイルすることなく、性能を引き出すような音創りにつとめたのがDEH-P01の『音が良い』という評価につながっていると思います」
D/Aコンバーターを選別した後は?
「主要な半導体の選定を行い、試作品を作っていきます。その後、試作品での抵抗やコンデンサーによる『音質チューニング』に移って行きますが、この抵抗やコンデンサーによる音質チューニングが、非常に難易度が高いです。いくら良い半導体を作っても、このチューニングによって台無しになることもあります。今回、AK4396を新規採用したわけですが、従来のバーブラウンとキャラクターが違うこともあり、音創りには苦労しました。音質チューニング時、元気はいいが軽い音になってしまったり、質感が悪化することが多々ありました。ただ、そこはむやみにいろいろな部品を試したり、回路を変更するのではなく『音をドッシリとさせるにはこの部品。音の質感を良くするにはこの部品』というように、これまで培ってきたノウハウを基に進めていったため、方向性を見失うことはありませんでしたね」
D/Aコンバーターの他に、高音質のキーポイントとなるデバイスは?
「従来はカロッツェリアXでしか搭載されていなかったサウンドマスタークロック回路の採用が大きかったと思います。性能等に気をつかって検討を行った結果、AK4396の能力を100%引き出せるような構成となりました。結果、この価格帯では考えられない質感と空間表現を実現しています」
音質チューニングは一人で?
「基本的にはヘッドユニット担当の梅沢、アンプ担当の福間と共に進めましたが、頻繁にカロッツェリアXの設計者も交えて、一緒に音質確認を行いました。またDEH-P01はパイオニアにとって非常に重要なモデルであったため、要所要所で営業、商品企画など、車内の選りすぐりの耳を集め、音質確認会を何度も行いました。基本的な音創りは設計の私を中心に3人で行いましたが、実際には数十人の人間が一緒になって音質確認を行いました」
同梱アンプの高音質化にも注力
付属アンプの音も、すごく良くって感心しました。「ヘッドユニットと別筐体にしてL/R独立の電源フィルターを搭載することで、1回目の試作の段階(試作は全部で4回)でDEH-P930よりかなり音質向上していましたが、従来のDEH同様、パワーICを使用しているため、一般的な外付けパワーアンプに比べると、低域の解像度、エネルギー感、質感などが、どうしても『安くて軽い音』でした。『パワーICを使っているから、これ以上の飛躍的な音質向上は望めないかも知れない』と思う所もありましたが、部品交換によってしっかりと音に跳ね返ってくる事が判ったため、パワーICの周辺部品、パターンレイアウトにこだわり、また大元の電源フィルターのコンデンサーは通常ではあり得ない、かなりグレードの高いものを使用しています。その他の部分でも、徹底的に音を聞き込み部品の選定を行い、パワーICでも質感が高く、しっかりとパンチの効いた音が出るように仕上げました。5万円クラスの外付けアンプのような『高い質感』と『情報量』を得ることが出来ていると思います。外付けアンプを使用する前に、是非一度同梱アンプを試して欲しい、そう思います」
やり残したことは?
「製品発表までの1年、全力でDEH-P01に向き合っていましたから、やり残したことはありません。10万円という価格設定のため、費用対効果をしっかりと見極めチューニングを行いましたし、コストをかけずに音質向上できるノウハウは、すべて投入したつもりです。これまで以上にワイドレンジですし、音がしっかりと前に出てきます。何より、聞いていて楽しいと思います。ぜひ、一人でも多くのお客様に、この音を聴いていただきたいです。おそらく、所有されているCDや音楽ファイルを、聞き直してみたくなると思います。あと、さまざまなパワーアンプと接続されることを想定し、高価なRCAケーブルは同梱していません(笑)ぜひ、さまざまなケーブルを試してみて、音の変化を楽しみ、好みのものを見つけて頂きたいとおもいます。DEH-P01なら、同梱アンプでもケーブルの音質の違いをしっかりと描き分けることができますから」